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そんなことを考えている俺のことは気にもせず、また吉川さんはバットを振り始めた。
いや、そんなことより。
ピッチングもすげぇと思ったけど、素振りもかなりきれいだ。
右足を少しあげてタイミングをとる。踏み出した足がついた瞬間、ブン! とバットが空気を切り裂く音。思い切りのいいフルスイングだけど、振っても目線がブレない。
彼女が見据える目線の先には、ピッチャーがいて、ボールを投げてくる、そんな映像がはっきり流れているのだろうか。
そう思わせるようなほど、彼女はその一振りに集中していた。
これ、俺がここで素振りを分析してることにも気づいてないんじゃないか?
だとしたら、じっくり観察させていただき――
「安達君。安達君もバット振ったら? 私の見てたって、ヒットをうてるようにはならないよ」
バットを振りきったその瞬間、吉川さんは平然と注意してきた。
うお、観察してたのバレた?
とりあえず、素直に謝るしかないよなぁ。
「ご…ごめん……。あんまりきれいだったからつい。参考にさせてもらおうかな~……なんて」
横目で、吉川さんは目を見開いて、驚いたように俺のことを見ていた。
もしかして、疑ってる?
ひぃ~……とてもごまかしきれない。
嘘つくの苦手なんだよね、俺。
しかし彼女は手をとめ、俯いたあとに、困ったような表情をみせた。
「……ありがとう。でもなんか、照れるよ……」
吉川さんは首筋をかきながら頬を赤らめていた。
あれ? 以外にごまかせた?
てか、吉川さんって結構思ったより恥ずかしがりなんだな。
今日一日で何回照れる気なんだ。
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