夏大へ

2/10
857人が本棚に入れています
本棚に追加
/1208ページ
厳しい厳しい、夏大へ向けての練習が始まる。 去年の夏は、三神やみんなのおかげで東東京大会3回戦まで戦った。 俺は、というと、本当に何もできなかったのを憶えてる。 それだけは確かだった。エースとして、情けないばかりだった。 でも、今年は違う。変わるんだ。 吉川さんからのコーチング。 俺は出会ってしまったから、吉川亜澄に。 「おい! 安達。ニヤけてないで早くこの問題解け」 「は~い」 6時間目の午後のこと。 本格的に授業も始まりだす、4月2週目のこと。 ま、学校の授業なんてただのオマケみたいなもんさ。 勉強なんて、やろうと思えばできるし。 机に広げられたノートに、びっしりメモが書かれたのを見れば、別に俺が授業放棄してるとは先生も思わないだろう。 そんなんことより、早く野球がしたい! このウズウズする感覚! 吉川さんの華麗なる投球を見たい! もう少し。あと5分。 俺は黒板ではなく、その上に引っ掛けられている時計と、机からにらめっこしていた。 不運なことに、出席番号順である今の席は、一番前なのだ。 でも時計が見やすいという意味では、運がいいのかもしれない。 俺のはやる気持ちなど知らず、マイペースに進む秒針。 同じくマイペースに喋り続ける教師。 しかし、そう焦らされるのも、あと3分だ。 「はいじゃあ今日の授業はここまで。キリがわるいから、ちょっと早く終わるね」 きたぁ! やっと終わった! やっぱり運がいいぞ! 長い長い、学校! ついに放課後ですよ! さっと、いつものようにスムーズに机の中に教科書をぶち込み、ノートだけカバンに入れる。 ノートは一応見返す。 同じクラスの三神と、そして渡会の元へ走る。 「三神! 渡会! グラウンドいこうぜ!」
/1208ページ

最初のコメントを投稿しよう!