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――いつかの空き地。小さな吉川亜澄と、その兄吉川大輔。
『私、お兄ちゃんみたいに野球するー!』
『そっかそっかぁ! じゃあキャッチボールでもするか!?』
『うん! 私ね、来年から野球チームに入れるんだよ! お兄ちゃんといつか野球したいなぁ』
『おう! やろうやろう。いつかまた亜澄に会いに行くからね。そしたら今度はお兄ちゃんとちゃんとした野球しような!』
『やったぁ! 絶対だよ!? ずっとずっと、待ってるからっ!』
嬉しそうに笑っていたであろう吉川大輔の表情が、遠い記憶の中の兄の記憶が、吉川亜澄の中で消えかかっていた。
「懐かしいなぁ……。お兄ちゃんが高校行くちょっと前のときのことだったかな……」
だからこそ、2人でとった写真を見つめる。
ユニフォーム姿の吉川大輔と笑顔でボールをカメラに向ける吉川亜澄。
「私、まだ覚えてるんだ。お兄ちゃんとの思い出…」
カタっと写真たてを持ち上げ、目を閉じた。
消えかけるたびに、写真を見る。確かに、兄は笑っていたはずだ。
「私がまだ小さくて野球チームに入れなくて、お兄ちゃんがいつもキャッチボールの相手してくれたっけ……」
ぎゅっと、写真を胸に抱きしめる。
「いつか、一緒に野球しようって約束したよね……。本当にもう、野球できないの?」
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