慰安旅行

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そこには陸が立っていた。 恵と村山以外の全員が一斉に幽霊を見るかのようにぎょっと目を見開いて身じろぐ。 男達の異変に気づいたタバタ社員も何だと振り向くが、同じように固まった。 6年前と変わらない、触りたくなるような男らしい曲線を持つ上半身の上にはシンプルな白のVネックシャツを羽織り、長い足にブルーデニムに黒革紐のサンダルを履いていた。 手には黄色い革で作られた旅行バックを持ち、黒キャップを被っている。 完璧と言える体の上には繊細に形造られた輪郭の顔と鼻、甘い唇を持ち、大きな黒い瞳は優しく輝く。 デザイナー達を、どんな素晴らしい服を作りだしても勝てそうにないと打ちのめす美しさを持っていた。 陸は皆の反応に戸惑う事もなく、優しく微笑みかけた。白く綺麗な歯が見える。 全員が解けない魔法にかけられたように固まっていたが、陸の横にひょっこり恵が現れるといきなりカメラを出し、ぱしゃりと一枚撮った。
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