「さようならさようなら、お別れするのは辛くない」

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 いつの間にか雨は上がっていて、雲を突き破るようにして日が差していた。  濡れたアスファルトがキラキラと輝いていて、水たまりに白い雲が見えた。もうじき青空がやってくるのだと思うと、少し嬉しい。  大人になるにつれて青空なんて、気にも留めずに日々は過ぎていくものだと良く聞くけれども、それならば世の大人の人たちは物凄く損をしているんだなぁ。  足もとに出来た水たまりをぴちゃぴちゃ揺らす。長靴があればもっと楽しいのに。  子供の頃ずうっと青空を見上げていて首が痛くなった事を思い出す。その頃は空が真っ暗やみの宇宙に繋がっているなんて知りもしなかったし、キスをしたら子供が生まれるんだと信じていたから、好きな男の子と手を繋ぐことすらしなかったのだ。  抱きかかえていた長い布袋の先が濡れて、中の「どうたぬき」の黒い鞘が透けて見える。この子と出会ってから今まで色んな事があり過ぎて、私はそれをほとんど忘れてしまったけれど、きっとこの子は全部覚えているのだろう。  どういう漢字を書くのかは未だに解らないのだけれど、たぬき、だなんてちょっと可愛らしいな、といつも思う。  たぬきに初めて会った時の事は今でも忘れない、生まれてはじめてお父さんに叩かれた日でもあったからだ。
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