「さようならさようなら、お別れするのは辛くない」

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 お父さんは時代劇が大好きで、それが高じて殺陣や居合まで始めたような人だった。  普通のお父さんのようにゴルフに行ったりすることは全然なくて、いつも週末になると木刀を担いで殺陣の稽古に行くのだった。  そしてへとへとになって帰ってくると、ご飯を食べてすぐ、録画していたNHKの金曜時代劇を見る。  私が五歳くらいまではリビングを占拠していたのだけれど、反対勢力に私が加わるようになってからついに折れて、結局書斎の小さなテレビで一人寂しく見るようになった。  ただ、私が心の底から反対していたかというと、実のところそうでもなかったのだ。きらっと刀が煌めいてばたばたと悪い奴らが倒れていくのは痺れるほどかっこよかったから。  勿論お父さんは刀そのものも大好きだった、書斎の飾棚には二十本も三十本も刀が飾られていたしよくボーナスのほとんどをを刀に注ぎ込んでいたから、しょっちゅうお母さんやお祖母ちゃんにどやされていた。  時代劇の中でも特にお気に入りだったのは「子連れ狼」で男の子が生まれたなら「大五郎」と名付ける気だったらしい。  私が生まれてからずうっと溜めていたへそくりでたぬきを職人さんに作ってもらった時、お父さんは興奮して私の事を大五郎と呼んで「子連れ狼」ごっこを始めたのだった。
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