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しかし、周りがざわめき始めたところを見ると、どうやら全員同じ選択を迫られているらしい。
そして、それは《姫》であるユアも例外に漏れなかったようだ。
宙をぶらつく指先。戸惑いの瞳を俺に向けてくる。
「参加するかはどうか……ユアが決めればいいよ」
微笑み。ただ、俺は純粋な楽しみからその笑みを浮かべていた。
なにせ、役者が出揃い、待ち望んでいたメインクエストがようやく始まるんだ。
そりゃ、仕方ないだろう?
「……でも、あんたは当然イエスを押すんでしょ?」
「勿論」
即答した。
何も考えず、浮かれていた俺はユアの顔をろくに見ずに返事をしてしまったんだ。
俺は後にそれをひどく後悔することになる。
「じゃあ、私も……参加する」
「あぁ!」
この時は――本当に、どうしようもないぐらい、俺は浮かれていたんだ。
ただ目の前のウィンドウに夢中で、うずうずと指先を震わせ、『イエス』のアイコンに向かわせて……。
「……何かあったら、さっきの言葉通り、ちゃんと守ってくれるの……?」
だから――俺はそんな不安げな彼女の言葉を聞き流してしまったのだ。
不安に感じていれば止めてあげれば良かった。
俺が『アースガルドオンラインに住む』という言葉の意味をもっと深く考えていれば、こうはならなかったはずなのに。
世界が変わる。
現実から非現実へ。
でも、その非現実の世界に住んでいれば、それはもはや非現実などではなく、それが現実(リアル)となる。
それは別に現実世界(リアル)からVR(ヴァーチャルリアリティ)の世界へ行っても同じだ。
剣を振るい、力を示す。魔法を使い、敵を掃討する。
そんなファンタジーな世界で“暮らしている”のでさえ、俺には既に一つの現実となっている。
どうしてこうなっているのか? と聞かれれば、まさにこの瞬間が原因の発端となるのだろう。
俺とユアの指が同時にウィンドウの『イエス』をクリックしたその瞬間から――。
俺らの世界は……変わったんだ。
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