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そのままカチカチと電話帳を開き、ヤツへと電話をかける。
一回のコール音が鳴る前に、ヤツは出た。
「あははー、すまんねえ。今体育館裏にいんの」
「え? ちょっ、あたしが誰ボコるってのよ」
「忘れてないってー、今気付いたもん」
「だーかーらー、別になんでもないって。女には体育館裏でタバコふかしたい気分もあるの」
「ちょ! マジでいいから! お前はそこにいろ!」
……どうやらヤツはここに来るらしい。
ちくしょう。
惨めだよ、ちくしょう。
思い出したのはとあるバンドのただの曲。
ラブソングでもなんでもない、ただの唄。
アイツの一番好きなその曲を口ずさみながら、仕方なくアイツを待つ。
あーあ、なんかもうヤダ。
「──なに歌ってんだ、ヘタクソ」
「なによ。あたしの美声をただ聞きすんなんて、光栄に思いなさいよ」
ガサリと立つのは、幼なじみで腐れ縁。
学ラン姿で、校則破りの染められた茶髪に、十人並より上等な顔立ちのソイツに小さく息を吐いた。
「なに泣いてんだ?」
「だから言ったじゃない。女には体育館裏で泣きたい日もあるのよ」
「……だからなんで」
「察しろよ、KYめ」
無理だとは思うけど。
考え込むときに手で物を叩くクセのある幼なじみ──浩昭はその通りに壁をトントンと叩いてる。
まったく、ねえ……。
「フラれたの。たった今。先輩に」
「お前が?」
「どーいう意味よ?」
「先輩って、お前の委員会の先輩だろ? いやお前、先輩が好きだったのか……」
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