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「初恋よ、悪い?」
「うわ、ジンクス通りか……」
ちくしょう。
茶化すなよ、バカ。
浩昭はそのままあたしの横に腰を下ろす。
無言。
無言。
無言。
耐えられなくなったあたしは、また唄を口ずさむ。
それはさっきと同じ曲で。
泣きたかったけど。
隣にいる浩昭のせいで泣けない、ちくしょう。
「──なあ」
「なによ?」
「そんなに歌いたいならカラオケ行くぞ。もともとその予定だし」
「せんせーい、浩昭くんが慰めてくれませーん」
「慰めるような性格じゃねーだろ、オレは」
「ほら、行くぞ」と腕を引かれて、仕方なしにあたしも立ち上がる。
慰めろよ、可愛いあたしが泣いてんだからさ。
でも言わない。
これは浩昭なりに、気を遣ってんだから。
「じゃあ浩昭くんには強制的にあたしの好きな曲を歌ってもらいまーす」
「お前の好きな曲って……あれだろ? 女性ボーカルの失恋系の……」
言いたいことは分かるよ。
けどあたしも譲らない。
「浩昭が歌わなきゃ誰が歌うのよ。あたし音痴だもん」
「けどなあ……」
「いいわよ? 歌わないならカラオケで『襲われるー』ってマイク越しに叫んでやる」
「お前、最悪」
なんとでも言いなさいよ。
慰めない浩昭が悪いんだから。
それに。
浩昭がその曲を歌えば、あたしも諦めがつく気がする。
──まあ、あくまで気がするだけなんだけどね。
そのまま、今度はあたしが浩昭の腕を掴んで歩きだす。
放り出してたカバンも掴んで。
最後にもう一回、さっきの曲を歌う。
今度は、笑って歌える気がしたから……──
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