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「鏡にうつるもの」
あのときは、憧れてたのよとマキさんは言った。彼女は私と同級生だが、私より年老いて見えた。髪には白いものがまじり、洋服も破れている。
彼女と再会したのは名古屋の駅前で、彼女はホームレスになっていた。
私は彼女に弁当を渡し仕事当てがあるから三重に戻れと諭した。
すると、「怖い」という。
なぜだと聞くと、彼女は奥さんの霊がいると怯えた。
「あの時は若かったから上司と不倫するのもちょっとスリルがあっていいなと思ったのよ。
でもある日、彼とホテルへ言ったら奥さんが部屋にいたわ」
修羅場だねというと、ならよかったわよ。私は遊びです。ゲームですって帰ればいいんだから。
そんなこと何度もあったわよ。
でも今回は違ってた。鏡に自分の姿を写したらそこに私はいなかった。彼の奥さんが写ってた。
私が笑えば鏡の奥さんも笑う。恐怖に怯えれば彼女も怯える。
そこには私はいなかった。
だから逃げて今はこんな生活してるのよ」
私はすぐには信じられなかった。
だが、
奥さんは、その日に自殺したのよ。
いまじゃあ親元にも帰れない。
彼女はそういって涙した。
私の中から彼女の話への疑惑は消えた。
彼女は今は名古屋を離れてしまい京都にいるという。
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