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「山の女」
私が子どもの頃に親戚の家に遊びに言った事がある。
「絶対夜に山をみちゃいけないのよ」
私がつくやいなや一つの小高い山を指さし従姉妹が言った。
「あの山には山女が住んでいて、子どもだけさらうんだって」
「誰に聞いたの」
「さらわれた友達」
さらわれた子がどうして、彼女に言うことが出来るのか。私はわからなかった。というより山女の話が怖かった。
でも従姉妹の顔は怖いというよりあこがれているかのようだった。「そこはとっても怖い場所らしいわ。でも素敵な場所でもあるらしいの。」
彼女はそう言って顔を赤らめてみせた。
2日程たった頃、従姉妹がいなくなり大騒ぎになった。
幸い、翌日に従姉妹は見つかった。しかし従姉妹の精神状態は普通ではなかった。
「帰して。山へ帰して」そうわめきたてた。一週間程して従姉妹は元に戻り、平静を保った。だが見たこと言った事は何も覚えていなかった。
ある日私は夜に布団を抜け出して、小さな山を見た。
山が赤い。
山が燃えている。
夜の闇の中でそうみえた。
その闇からぬっと顔を出したものがいる。
目の歪んだ女である
片方の目からは涙が出ている。私は意識を失い。
倒れ込んだ。
どれくらいたったろう。私は従姉妹の部屋に寝ていた。
「見たのね」従姉妹は言った。
「でも絶対大人には言ってはダメ。帰れなくなる」
そういうと黙って隣で寝てしまった。
以来、その話は忘れていた。
3ヶ月前に息子たちをその従姉妹の家に連れていった時、
「夜中に山を見たらダメよ」という従姉妹の娘が三男に言っているのを聞いて驚いた。
従姉妹はただ首をふってみせた。
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