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「その子の気持ちを思って心を痛めてる金ちゃんは優しい心の持ち主やん?」
そんな金ちゃんを好きな人は、その子だけやのうて、きっともっとぎょうさんおると思うで。
白石のその声が聞こえてくる頃には重力に逆らっていた涙がついにこぼれ落ちていた。
自分でもどうして泣いているのかわからなかった。
ただ。
――自分の何処に魅力があるのか?
本当はクラスの子に告白されるずっと前から抱いていた疑問だった。
一人では何度考えても答えなど見つからなくて、無性に寂しくて、その虚無感を紛らすためにがむしゃらにテニスをしてきた時期もあった。
自分のそのでたらめなプレイスタイルを一番始めに認めてくれたのが白石だった。
いつだって白石は厳しい言葉の裏に優しさを灯してくれていた。
本当はさっき部室に残ったのも白石と二人きりになりたいという真相心理から来た行動なのかもしれない。
でも、だからと言って自分が白石に何を求めているのかわからなかった。
混乱した頭では尚更分からなくて、代わりに涙が溢れた。
せめてこの情けない顔だけは隠そうと思い、顔を伏せる。
頬に自らの涙を感じていたら、気が付けば、頭に優しい感触が伝わってきて、撫でられているんだと分かった。
その間なかなか泣き止まない自分に白石の視線が注がれていることに気付き、胸の辺りに違和感を感じた。
その違和感を探求するほど、今の自分には余裕がなかった。
自分も……そして白石も動こうとはせず、しばらくお互い口を閉ざしたままただただベンチに座っていた。
その間、部室には自分の噛み殺した嗚咽がやけに響き渡っていて、それを遠い意識で聞きながら、白石の手の感触だけが、今の自分を支えているのかもしれないと緩慢な思考のなか思っていた。
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