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「そういえばさー。あたしらの時代って、トイレの花子さんとか流行ったよねー」
「あぁー、流行った流行った。一番ビビりの友達をさ、敢えて一人で花子さん遊びましょってやらせてみたりっ」
公園の自動販売機の前。
暑そうに手で胸元を仰ぐ女子大生くらいのお姉さん二人組はそう言いながら、炭酸飲料の缶を爽快な音をさせて開け立ち去っていく。
自動販売機横のベンチに腰掛ける私こと喜多川美鈴は横目でその後ろ姿を見送れば、やがて視線を公園の入り口へ向けた。
待ち合わせの時間から20分オーバー。
携帯電話反応無し。
ついたあだ名「遅刻女王」。
流石だ。
そのあだ名の如し。
先程から誰もいないからと、セーラー服のスカートをヒラヒラと扇ぎ暑さを凌ごうとしたり、「櫻瀾中学校」と書かれた紺色のスクールカバンから下敷きを出して扇いでみたりしているが全く効果なし。
むしろ体力消耗。
「あ゙ぁ―、そろそろ死ねるぞー……。」
真夏の八月。
灼熱の炎天下。
とても公園前の日向には居られない。
…てワケで、私は日陰のベンチに腰掛け公園の入り口をぼんやり眺めながら、遅刻女王にメールを打つべきか否かと携帯をパカパカ開け閉めしていた。
「トイレの花子さん…か」
今年、大学二年生になる七歳年上の姉から以前聞いたことがあったような気がする。
学校の三階のトイレの手前から三番目の個室の扉を三階ノックして「花子さん遊びましょ」と言うと返事があるとかないとか…。
そんな話しを聞けば、「じゃあ二階建の学校や、ドアが中に開いてるトイレはどうするのー?」なんて姉に聞いて付きまとっては返答に困った姉にキレられた記憶がある。
けれど、今だってトイレの花子さんと聞けばそんな疑問が頭に浮かび、胡散臭いとしか思えない。
子供向けの怪談話にしても、これはつめが甘すぎるだろうと鼻で笑ってしまう。
「だからもう、聞かないんだよねトイレの花子さんって」
そう言って何気なく辺りを見回せば公園のトイレが目に入った。
同時に遅刻女王の甲高い声がすれば、公園の入り口前でセーラー服のスカートをこれでもかってくらいに短く履いた遅刻女王こと真城彩が笑顔でこちらに手を振っている。
嗚呼、彼女のあの一切悪ぶれた様子のない眩しすぎる笑顔。
「これは、遅刻女王に罰ゲームが必要ですな…」
ちらりと公園のトイレを見れば、私は涼しげに笑い、彩に手招きをした。
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