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公園のトイレの中は掃除が行き届いてないのか、嫌な臭いがした。
「うわぁー、まず入りたくない」
外はこんなに蒸し暑く、蝉の鳴き声で騒がしいというのに、トイレの中は不思議とひんやりしていて不気味に静かだ。
先ほどまで少しワクワクしていた私の気持ちもその不気味さに一瞬怖じ気ついた。
しかし何故か、入り口から三番目のトイレをふと見ると何かに引き付けられるように目が離せない。
「大丈夫。ただ、花子さん遊びましょってノックするだけでいいんだからさ」
「うーん…うん。でももしこれで何か起きちゃったらどーするよ?」
躊躇いなかなか足が進まない彩は私の服の袖を掴みボソリと言った。
「何かって?ないない。しかもただの公園のトイレだし。あっなんなら今から学校の図書室行くんだし、学校のトイレにする?」
私が意地の悪い笑みを浮かべて彩の顔を覗くと、彩はムッとした表情になり一歩前に出た。
「行きますよ、行きますよ。今日の美鈴性格悪いなーこの悪魔っ」
そう言って半ば放るように私にカバンを渡し、彩は足速にトイレの中に入っていく。
私はトイレの入り口から、その様子を黙って見ていた。
なんだか、ドキドキする。
得体の知れない期待のような、または一種の不安のようなものが鼓動を速くする。
「えーと…三番目だったよね、此処か」
ぶつぶつと独り言を言いながら、三番目のトイレの前に彩が立った。
彩は恐る恐る右手の甲をドアに向けてあげ、ノックする体勢に入りチラリと私を見る。
冷たい汗が、私の額から頬、顎へと伝う。
そして、彩が、コンコンと、ゆっくり、ドアを、ノックした。
そのとき、私の背筋をゾワッと何かが駆けた。
汗が噴き出した。
嫌な予感がした。
彩の唇が動く。
ダメだ。
ヤバイ。
止めなきゃ。
「彩っ、だめ……」
「花子さん、遊びましょー……ぉお?!」
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