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1997年8月。深夜1時過ぎ。
終電の終わった線路上。田舎の冷たい夜風が頬に当たり心地良い。俺はいつものように幼なじみの藤川信介と向かい合わせに座り喋っていた。
「なあー前田」藤川が声をかけてくる。「お前、先の事とかって、何か考えとん?」
「なんや、改まって」と、俺は苦笑した。意味は無いが空を見上げてみる。昼間は雨が降っていた。黒のキャンバスに茶色い絵の具を中途半端に垂らしたような色合いで、星がまばらに散る夜空だ。
「俺は高校も辞めたし」俺は投げ遣りな口調で続けた。
「ろくでもない未来が待っとるんちゃうか」
俺は高校を辞めてプー太郎、藤川は工業高校に通っていて、来春卒業予定の3年生だ。
「藤川はどないしよ思ってるん?」
と、藤川に視線をやる。藤川は長い脚を折り畳み、窮屈そうに胡座をかいている。
「高校卒業したらどーすんの?」
藤川が「俺な」と、整ったシャープな顔に真剣さを滲ませて俺を見つめてきた。
「今夜はお前に思い切って打ち明けたい事があんねん!」
「まさか……おい、やめてくれよ!」
俺は言って、尻を両手で押さえる。「心もケツも開かんぞ! 俺は」
「なんでやねん! 違うわ!」藤川は呆れ笑いを浮かべ、「もうええ、言うぞ」と、頭を振った。藤川のサラサラヘアーが夜闇の中で揺れる。
「前田、お前、俺と越本興業行ってお笑い芸人ならへんか!?」
藤川が何を言っているのか、よくわからず、「越本? お笑いの?」と俺は訊ね返す。
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