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俺は呆れていた。そして同時に驚いていた。
藤川は友人達の間でもあまり前へ出るタイプではない。時々やらかす天然ボケで周囲を笑わす、いや、笑われる事はよくある。彼は長身、サラサラヘアーの男前だが、どんくさくて、間抜けなのだ。
そんな藤川がこんなに必死に、しかもお笑いの世界に俺を誘ってくるとは俺の18年間の人生ベストスリーに入る意外な出来事だ。
「使命なぁ」
俺は言って、朧な街灯に照らされる踏切遮断機を見上げた。
――今日も1日、電車が来る度、腕の上げ降ろし疲れたなぁ。
ハッとする。遮断機の声が聞こえた。ような気がした。
――でもそれが僕の使命だから、気持ちいいや。あれ? あれあれぇ。あそこに使命を果たせていない人間が居るぞ。若いくせに働きもせず、食って寝るだけの人間が居るぅ。
俺は瞬きを多くして、幻聴を掻き消した。何の仕事も長続きしない劣等感からか、時々こういう事があった。
「さぁ、早く返事をくれ!」
藤川が線路に大の字になった。
「お前が俺と一緒に芸人になる言わな、俺は始発の時間までこうしとくぞ!」
「藤川、やめろって」
俺は藤川の言葉を鵜呑みにしたわけではないが、一応言った。
「俺な」大の字のまま藤川がポツリポツリ口を開く。
「お前と遊ぶんが一番面白いねん! お前と居ったら他の誰と居るより楽しいんや! だから、そんなお前と何かデカイ事をやりたいって、ずっと思っとったんや」
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