2人が本棚に入れています
本棚に追加
タユタヒ弛ム朧月ハ
アノ頃ノ二人ヲ霞ンデ見セタ
徒夢ノ如ク散ル桜ハ
彼ノ人ガ見タ夢ノ如ク
【碧瞳ノ鎮魂歌】
―ねぇねぇ、紅い瞳のウサギがいるよっ!どうして紅いの?病気~?? ―
― あぁ…それはね…この世の悲しみを嘆き涙を流し続けたからだよ ―
そうなのか、と幼き頃の私は信じて疑わなかった。
あのときの些細な会話をこの男が覚えていたのかはわからない。
でも男は抑揚のない虚ろな目を私にむけて問うた…。
「僕の瞳が紅いのは、何故だかわかる?」
この世で紅い瞳を持つ者はなんらかの理由で『鬼』が覚醒し、心を喰われた者…。
『鬼』生きる全ての者の中に潜む。
一度覚醒すれば理性のほとんどを喪失し、己の欲望を満たす願望と殺戮衝動にかられ人でなくなる。
男は「僕の瞳が紅いのは―」と私の応えを待たず続けた。
「この世の悲しみを嘆き涙を流し続けたからだよ。この世の愚かさを嘆き涙を流し続けたからだよ。この世の偽りを嘆き涙を流し続けたからだよ。この世の裏切りを嘆き涙を流し続けたからだよ。この世の醜悪を嘆き涙を流し続けたからだよ。この世の汚濁を嘆き涙を流し続けたからだよ。この世の腐爛を嘆き涙を流し続けたからだよ。
そう…この世を嘆き…涙が血に変わっても流し続けたからだよ…」
真っ白な心に広がった黒い染みは消すことはおろか隠すことさえできなかった。
強く真っ直ぐだった信念は一度折れてしまえば元には戻らなかった。
直視できないほどの輝きの影には深い深い底無しの闇が潜んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!