第1章 雨のいたずら

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先日踏まれてしまった、あの絵だ。 都萌にとっては自信作で、書き終えたばかりの絵だっただけに、踏まれた時はかなりショックだった。この店には、それ以外にも、都萌が描いた絵が飾られている。店長が気に入ってくれたら、店に飾らせてくれたのだ。店長は絵心はないけれど、綺麗と思った絵ならいいよ、と快く承諾してくれた良き理解者だ。 その絵を見つめる人がいる。 都萌はなんだか嬉しくなってゆっくりとその人に歩み寄ると、 「和依?」 とテラスから彼を呼ぶ声がして、彼はゆっくりと振り返り、そこにいる都萌と目が合った。彼の顔を見て、都萌は驚いて息を飲むと、 「あ、あなたっ」 と言いかけると、彼はキョトンとして都萌を見つめた。雨の日に、渋谷のジュエリーショップの前で出会った人だった。
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