第1章 雨のいたずら

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東京、渋谷駅前のスクランブルが、青に変わった。 人は急ぎ足で、駅前の横断歩道を歩いていく。さっきまでの青い空は、怪しげなグレイの雲に覆われて、ジメジメした湿った空気が肌にまとわりついている。そうして、すぐにアスファルトには雨の雫が染みとなって点々としていく内に、あっという間にスパンコールが賑やいだ。 交差点を歩き出した秋乃(あきの)都萌(ともえ)は、眉をひそめて空を見上げると、 「やだ…雨なんて。だから梅雨は嫌いなのよ…」 と不機嫌に呟いて、抱えていたキャンバスの絵を濡らさないために、薄い長袖の上着を脱いでキャンバスに巻くと、一目散に駆け出して近くの屋根のあるジュエリーショップの入口に向かった。 キャンバスは足元に立て掛けて置いて、少し濡れた体をハンカチで拭きながら、ふとショーウィンドウから店の中を覗いてみると、指輪やネックレス、ブレスレットなどがガラスケースに並び、女性やカップルたちが楽しそうに眺めている様子が見える。都萌はそんな様子を見て、ふとガラスに映る自分の姿を見つめた。
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