第1章 雨のいたずら

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堅苦しくない程度のスーツに身を包み、ふわりと揺れる髪はほとんど金色で、ゆるやかに波打っている。彼はガラス越しではなく、隣の都萌の顔を見つめると、都萌はドキッとして頬を真っ赤に染めた。が、ふと都萌は彼の足元を見ると、床に置いてしまった上着でくるんだ絵が、彼の足の下になっていた。 「ち……ちょっと…踏んでる…!」 と言って思わず彼の胸を突き飛ばすと、彼は尻餅をついて、呆気にとられながら驚いて都萌を見上げた。都萌は急いで絵を拾い胸に抱きしめると、きつく男を睨みつけて、 「この絵を踏むなんて…サイテーッ!」 と怒鳴ると、すぐに走り去ってしまった。通り過ぎる人たちは何事かと思い、そこに座る若い男を見て笑っている。男は呆然としながら、都萌の去った方を見ていたが、やがて吹き出して小さく笑った。 「なんだ、あれ。おもしろっ」 すると、ショップのドアがゆっくりと開き、店員の牧原「まきはら》水也美(みやび)が現れて、そこに座りこんでいる男を見ると、 「何やってるの、和依(かずい)」 と微笑みながら尋ねた。水也美は、さっき都萌が見取れていた女性だ。男は水也美を見上げてにっこりと微笑みながら、両手を広げた。 「君に会いに…」
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