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 暗い……  何も見えない……  一面を黒が覆っている。  まさに、一寸先は闇だ。 ――これが死後の世界か……  時雨は一人妙に納得していた。  自分の体すら見えない空間ではめをあけているのか瞑っているのかも解らない。  死後、三途の川を渡ると言うがこの闇では川を見る事すら出来ないだろう。  自分の感覚を疑いたくなってくる。  触れる物は何も無く、地面すら感じる事は出来ない。  ただ、自分の体には触れられるので触覚が有る事はかろうじて解る。  当然視覚は先程言った様に完全シャットアウトされている。  当然無臭なので、嗅覚はあてにならない。  味覚は……よくわからん。  時雨はふと思いつき声を出してみた。 「あーあー。ワレワレハチキュウジン」  どうやら、聴覚は有るらしい。 ――案外、呆気なかったな……  時雨は闇の中に一歩踏み出した。  実際は進んでいるのか解らない。  ただ、地面が有れば進むであろう力の入れ方をしたまでだ。  空を歩くのは気持ち悪いであろう事を時雨はこの時知った。 「やっぱ、俺……死んだんだ……」  時雨は一人呟いた。  少なくとも、死ななければこんな経験は出来ないと思われる。  もっとも、普通なら怪物に追われる経験もし無いだろう 『確かに、死にそうだな』  何処からか声が響いた。 「えっ……誰!?」  時雨は周りを見渡す。 ……キラキラ……  足元がゆっくりと光りだした。  突然の光に思わず目を伏せる。  どうやら、視覚もちゃんと有ったらしい。  目の痛みに慣れてきた頃に、ゆっくりと目を開いた。  足元と光る部分に僅かな高さの差がある。  どうやら、そこを下と認識して良いらしい。 『死ぬか生きるかを決めるのはお前自信だ』  またしても声が響いた。  よく聞くといくつもの声が重なっている。  低い男の声や幼い女の子の様な声……  様々な声が見事にハモっている。  時雨は意味がわからない。 「だって……俺もう死んだんだろ?」  時雨は闇の中に問いかけた。 『お前はまだ死んでいない』  時雨は耳を疑った。 ――いや、死んだからこんな場所にいるんだろ? 時雨は色々ツッコミたかったが雰囲気に負けてツッコまなかった。 『だが、いずれ死ぬ』 ………………  しばらくの沈黙が流れた。 「要するに、まだ死んでないけどもうすぐ死ぬって事?」  時雨は問いかけた。  返事は無い。
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