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……クルッ……
選んだカード以外のカードがその場で回転して表を見せた。
そこには色々な動物が大きく描かれている。
蛇や鳥……龍なんかもいる。
更に、その左上と右下にマークと数字が書かれている。
♦―7、♣―3、等どうやらトランプのようだ。
突如、選んだカード以外が落ちる様にして闇に消えた。
一枚のカードが宙にに浮いている。
文字通り"降り注ぐ"光とスポットライトがなんとも幻想的な空間を創っている。
選んだカードがゆっくりと表になった。
そこには……
「♥―A……ライオン?」
時雨は呟いた。
カードは♥―A。
描かれていた動物はライオン。
湖の真ん中、ちょうど一匹分だけの丸い足場にいる。
世にも珍しい銀色の鬣(たてがみ)のライオンだ。
風を感じる様に軽く目を伏せている。
突如、カードが強く輝いた。
時雨は思わず、目を腕でかばう。
輝きは線になり消えた。
時雨はゆっくりと腕を下ろしていく。
少しずつ銀色が覗く。
ゆっくりとその姿が明らかになった。
豊かな、銀色のたてがみは風も無いのになびいている。
伏せていた目が開かれる。
蒼く清んだ瞳がこちらを見た。
「うわぁ!!」
時雨は尻餅をついた。
鋭いというよりは厳しいと言った方が正しいだろう。
獣の口が開かれる。
『さぁ、時間が無い!最後の儀式だ!!急いで我が名を呼べ!!』
先程までの重なった声とは違いライオンただ一匹の声が響く。
威圧と言うべきか、時雨は声だけで威嚇されている。
流石は百獣の王と言ったところか。
今更、ライオンが喋る事に驚いてはいられない。
しかし、今はそれ以前に……
「お前の名前なんて……」
時雨は必死に考えた。
良い名前が思いつかない。
そんな時雨に一つの名前が頭に浮かぶ。
考えたわけでは無い。
今までそこに無かった物が突然現れた感覚に近い。
名前から現れたと言った方がふさわしい気もする。
確かに、今考えると由来となるべき事は有った。
しかし、そんな事を考える前にその名前は浮かんだ。
"心で考えた"
なんとも、格好良いがふさわしい気もする。
『我が名は……』
時雨の意識が現実に引き戻された。
周囲が高速で動く。
物凄く速い乗り物にでも乗っている感じだ。
見覚えの有る景色が近づく。
誰もいない街を駆け抜ける。
目の前にはさっきの黒がいる。
時雨は全力でもってその名を叫んだ。
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