11/13
前へ
/44ページ
次へ
……クルッ……  選んだカード以外のカードがその場で回転して表を見せた。  そこには色々な動物が大きく描かれている。  蛇や鳥……龍なんかもいる。  更に、その左上と右下にマークと数字が書かれている。  ♦―7、♣―3、等どうやらトランプのようだ。  突如、選んだカード以外が落ちる様にして闇に消えた。  一枚のカードが宙にに浮いている。  文字通り"降り注ぐ"光とスポットライトがなんとも幻想的な空間を創っている。  選んだカードがゆっくりと表になった。 そこには…… 「♥―A……ライオン?」  時雨は呟いた。  カードは♥―A。  描かれていた動物はライオン。  湖の真ん中、ちょうど一匹分だけの丸い足場にいる。  世にも珍しい銀色の鬣(たてがみ)のライオンだ。  風を感じる様に軽く目を伏せている。  突如、カードが強く輝いた。  時雨は思わず、目を腕でかばう。  輝きは線になり消えた。  時雨はゆっくりと腕を下ろしていく。  少しずつ銀色が覗く。  ゆっくりとその姿が明らかになった。  豊かな、銀色のたてがみは風も無いのになびいている。  伏せていた目が開かれる。  蒼く清んだ瞳がこちらを見た。 「うわぁ!!」  時雨は尻餅をついた。  鋭いというよりは厳しいと言った方が正しいだろう。  獣の口が開かれる。 『さぁ、時間が無い!最後の儀式だ!!急いで我が名を呼べ!!』  先程までの重なった声とは違いライオンただ一匹の声が響く。  威圧と言うべきか、時雨は声だけで威嚇されている。  流石は百獣の王と言ったところか。  今更、ライオンが喋る事に驚いてはいられない。  しかし、今はそれ以前に…… 「お前の名前なんて……」  時雨は必死に考えた。  良い名前が思いつかない。  そんな時雨に一つの名前が頭に浮かぶ。  考えたわけでは無い。  今までそこに無かった物が突然現れた感覚に近い。  名前から現れたと言った方がふさわしい気もする。  確かに、今考えると由来となるべき事は有った。  しかし、そんな事を考える前にその名前は浮かんだ。  "心で考えた"  なんとも、格好良いがふさわしい気もする。 『我が名は……』  時雨の意識が現実に引き戻された。  周囲が高速で動く。  物凄く速い乗り物にでも乗っている感じだ。  見覚えの有る景色が近づく。  誰もいない街を駆け抜ける。  目の前にはさっきの黒がいる。  時雨は全力でもってその名を叫んだ。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加