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「すいません、神隠し村へはどう行くのでしょうか?」
麦藁帽子を被った少年が近くを通った人に尋ねた。
「神隠し村?さぁ、きいだごどねえなあ。見でわがるえ。この町は駅からただまっすぐにつづいでいるだげだおの」
色のさめたワンピースを着て、下駄をつっかけた女の人は首をかしげた。
時雨(シグレ)は泣きたくなった。
ホームが一つで、木のベンチが二つ、置いてあるだけの、小さな駅。
舗装されていない道端の雑草にも、駅の建物にも、土ぼこりがあつくかかっている。
そのせいか、町が白っぽく見える。
一台の自動車と、二、三人の人が、のろのろと動いている。
はりきっているのは、太陽だけのようだ。
そんな中、自分は
旅行かばん
麦藁帽子
だけ…
そう思うと、自然と首が項垂れた。
心配した女の人は、時雨を駅のそばの交番へ連れていってくれた。
「お巡りさん迷子らしのす」
と、女の人は声をかけた。
「ほう、珍しごどもあるもんだな。迷子だってか」
といいながら、シャツの襟をはだけて、片手にうちわを持ったお巡りさんが出て来た。
旅行かばんを片手に周りを見回している時雨を見ると、
「こりゃ、家出だがもしれね」と言った。
時雨はぐいっと頭を上げて、真っ正面からお巡りさんをにらんだ。
しょぼしょぼした目の、年とったお巡りさんだった。
「ちょっと待て、俺は少なくとも家出ではねぇ!」
しかし、お巡りさんは、まぁまぁといったかっこうで、時雨を交番に招き入れた。
女の人まで心配そうについてきた。
交番の中はクーラーが効いているわけでもなく、小さな扇風機が机の上で必死に首を振っている。
お巡りさんは机に向かうと、
「名前はなんて言うのす?」
と聞いた。
「時雨…響 時雨(ひびき しぐれ)です」
時雨はぶっきらぼうに答えた。「『シグレ』ってどう書ぐのすか?」
「時の雨」
「ほう…珍し名前だごどや」
時雨は黙っていた。
「それで、どごさいきてのす?」
「神隠し村へ行きたいんです」
お巡りさんははてといった顔で、首をかしげた。
そして、心配そうな時雨を見ると、
「今調べでやっから」
と、優しく言って、ほこりの厚く被った、大きな帳簿を取り出した。
「なにしろ、道を聞がれるなんて全ぐ久しぶりだがら」
と、ほこりを軽く吹いてから調べはじめた。
しばらくページをめくっていたが、
「まんず、螺旋山あだりのごどらしじゃ」
と、手を止めた。
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