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 背の高い木が繁っていて、薄暗い森の木の間に丸い物が見える。 確かに、麦藁帽子だ。  ところが、時雨がそこまで追いつくと帽子はソレよりちょっと先へ行く……  時雨は夢中で追いかけ回した。  木々はそんな時雨を嘲笑うがごとく時雨の頭上でザワザワ音をたてている。  ふと気がつくと白い物が流れ始めている。  霧だとわかった時には1メートル先もぼんやり霞んでしまった。 「嘘だろ…」  思いがけない出来事に時雨は真っ青になって立ちすくんだ。  まだ、夕方でもないしそんなに高い所までは登った訳でもない。 ――すぐ、晴れるに決まってる。  時雨は必死に自分に言い聞かせた。 ――下手に歩きまわらないほうが無難だ。  そう考え、時雨はその場に立ち止まった。  さっきまで汗をかいていたのに、もう、肌寒い。  むき出しの腕には、鳥肌がたっている。 ――少し、運動でもして体を暖めよう……  時雨はやる気をふりおこして足踏みをした。 ――コーン――コーン―― 「え?」  時雨は思わず呟いた。  足の下が土の感触じゃ無い。  それに、コンコンと硬い音がした気がする。  時雨は屈みこんで足元を見た。 左足は雑草の上に…  右足は石の上にある。  それも、平らな石……  時雨はもう一歩霧の中へ踏み出してみた。  やっぱり、靴が石の上で音をたてている。  しばらく歩くと幕が上がる様に、さっと霧が晴れていった……  時雨は、ぽかんと口を開けて辺りを見た。  目の前に小さな街があったのだ。  ここが、お巡りさんの言っていた螺旋村なのだろうか。  とにかく、時雨の思っていた所とは違っていた。  時雨は、赤茶けた土の上に寄り固まっている、黒ずんだ小さな家々を想像していたのだ。  ところが、森の深い緑の中には、赤やクリーム色の家が有り、石畳の上は雨が降った後の様に濡れていた。  森の中には家々が立ち並んでいるがしいんとして人は誰もいないようだ。  まるで、外国にでも来たみたいだった。  どの家からも人の気配がしない。  時雨は振り向くとかばんを掴み、石畳の道を進んで行った。  時雨の足音だけが不気味に響いている。  しばらく行くと道に麦藁帽子が落ちていた。  慌てて拾いあげると軽くほこりを払った。 「どうにも、山の中の村って感じじゃ無いよな……」  独り言を言うと、周りを見渡した。
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