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 影が瓦礫を押し退けて来るのが遠くからでもわかる。 ――くっそ、何であんなんがいるんだよ  時雨は心の中で文句を言いながら、足を引きずり逃げた。  相変わらず、人の気配は無い。  さすがにここまで人気が無いと少し気持ち悪い。 ――普通、RPGなら誰かが助けてくれるシーンだろ!  しかし、助けてくれる人はおろか人がいない。  あくまで、夢物語は夢物語なのだ。  その事実が一層、肩を重くした。  時雨はこの異常事態の対策をとろうと、空いていた窓から、一軒の家に転げ込んだ。  結論から言うと家の中には誰もいなかった。  まるで、つい先程まで人がいた様に生活感に溢れている。  テーブルの上にはお菓子の缶があり、椅子はいくつか引いてありまるで誰かが座っていたようだ。  不思議な事に争った跡は全く無い。  ただ、生活から人が消えただけの景色だ。 ――何で誰もいないんだ?  家の中は静まりかえっていて足音さえよく響いた。  足音を聞かれるとまずいのでやれる限りの忍び足で進んだ。  時雨は家の窓の下に隠れた。 ――落ち着け…落ち着け俺  冷や汗が頬をつたう。  荒くなった息づかいを深呼吸で整え、頭に手を当てた。  時雨は状況を整理し始めた。 ――親父に行けって言われて……場所がわからなくなって…… お巡りさんに山の中に行けって言われて…… 山の中を歩いていたら麦藁帽子を落として…… 神隠し村の立て札を見つけて…… 麦藁帽子が飛ばされて…… 霧の中をさまよって…… 誰もいない街があって…… 謎の生命体(今後は"黒"と呼ぼう)に襲われて…… 今に至る……  時雨は頭を抱えた。 ――何でこんな事になるんだよ……  時雨は泣きたくなった。  自分にとって……いや、人類にとってありえない状況。 ――そうだ……これは夢なんだ……痛っ 自分に言い聞かそうとすると足が夢じゃ無いと訴える。 ――とりあえず、帰るぞ……俺は帰る  時雨は窓から少し顔を出して様子をうかがった。  未だに砂煙は晴れずに広がっている。 ――ガラガラ――  明らかに瓦礫を崩す音が聴こえた。
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