02:都市の陰り

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「その、気にしないでください。それに俺はサーシャには本当に感謝しているんです。」 あの時、あの森でサーシャに出会わなければ確実に行き倒れていただろう。 それに、みんなの事を知らないままだったかもしれない。 「サーシャが居たから間違いなく今の自分がある。だから謝らないでください。」 ありがとう。 微かな声が護に届いた。 暫しの沈黙の後ウィゼルは口を開いた。 「護君。本当の事を言うと私は、サーシャが君を連れて来たことが嬉しくて仕方なかった。」 先ほどの謝罪はこの街を治める王として。 今から話すことはサーシャの父として。 ウィゼルが話したかった大切な話しとは後者のほう。 父親として護と話しがしたかったのだ。 「私は娘の友達を一度も見たことがなかった。娘が一人きりで今まで過ごしてきたとは言わないが、娘が心から信頼する人間は周りには居なかった。」 護は自分が知らないサーシャの話しを静かに聞いた。 「だが、昨日の夜のことだ。娘が楽しそうに私に話すのだよ君のことを。」 人と話すのが苦手で挙動不審。 面白くて可笑しな人。 「他愛ない話しだったがサーシャのあんな顔を見るのは初めてだった。」 そして、一息置いてウィゼルは言った。
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