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呼び鈴を鳴らす感覚は次第に短くなり
扉を叩く音は部屋の壁まで震わせていた。
「こら!出てきなさい護(マモル)」
扉の向こうの相手。
水瀬 奏 (ミナセ カナデ)が怒鳴る。
「今日は学校行くって約束でしょうが!早く支度して出てこい!!」
絶えず、呼び鈴と扉を叩く、というより蹴っているであろう音
そして、奏の怒声が響き渡る。
「あいつは、近所迷惑とか考えねぇのか。」
護と呼ばれた少年は布団の中で呟く。
すでに老朽化がかなり進んでいるこのアパートはとにかく音が響くのだ。
が、奏はそんなことはお構いなし。
しかし、しばらくして
「ねぇ、早くしないと私行っちゃうよ?」
いいの?と今までとは感じの違う声音で尋ねてきた奏。
気づけば、嵐のような音も鳴り止んでいる。
護は内心ほっとしてベッドから起き上がった。
「奏のやつ、行ったの―――」
か?と言い切る前に背中が跳ねた。
何故か?
ベッドからも見える向こう。
閉まっているはずの扉の鍵が開く音がしたからである。
背中に滝のように冷や汗が流れる。
何故か?
開かれた扉の向こう。
朝日に照らされた制服姿の女子。
髪を後ろで束ねた水瀬 奏がこちらをじっと見つめていたからである。
「なんだ、起きてるじゃん♪」
護が起きているのを確認して微笑む奏のその顔は眩しく
―――最悪の笑顔だった。
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