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未練など残してはならぬと知りつつも、馳せる思いを止められない。
だが、去らねばならない。
現実を見なければならない。
脇に置いていたアタッシュケースを持ち上げた。
「…もう…行くよ」
たった一言を発するのに、ここまで辛かった事が有っただろうか?
現実を、現実という名の彼女を見ると溢れるものがありそうで、思わず背中を向けた。
そして、ゆっくりと電車に向かって歩いた。
不意に、彼女に呼び止められた。
足は止まった。
だが、後ろを見る気にはなれず、それだけで留まった。
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