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すると、彼女の手が僕の頬を掴んだ。
細い華奢な白い手首を認識した瞬間に、柔らかな感触が唇を支配した。
たった秒単位の出来事。
だが、十分過ぎるくらいの長い接吻(くちづけ)。
離れた唇に残った残滓を気にする間もなく、彼女は笑顔で何かを呟いた。
だが、その瞬間に汽笛が鳴り響いた。
彼女は急かして背中を押した。
電車に無理矢理乗り込む。
すぐに、扉が閉まり、外界と隔離(シャットアウト)された。
彼女は何と言ったのだろう?
聞き取れなかった言葉は今も知らない。
今ある確かな現実は唇の柔らかな残滓だけだった。
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