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「起きなよー、いつまで寝てんのさー」
何とも気怠げな声から、俺の一日は始まる。毎度毎度寝覚めが良くないのはこれの所為ではないだろうか。
「あー……、おはよぅ……」
「はいはいおはよーさん。ご飯だからさっさと降りてきてねー」
毎朝俺を起こしてくれるのは、姉の加代だ。現在大学生。一見パッとしないがよく見れば美人と評判の、自慢にしていいのか悪いのかよく分からない姉である。
……ここだけの話、実際かなりの美人だ。パッとしないのは常に気怠げだからだと思う。
勿体無いので、昔それとなく告げてみたが「恋愛とかきょーみないし」とのこと。
あんたが結婚して子供作らないと俺に過剰な期待がかかるのだが。
ま、そんなの知ったことじゃないんだろうな、あの姉は。
思考をそこで中断し、寝ぼけ眼をこすりながら一階のリビングに向かう。まず迎えてくれたのは美味しそうな味噌汁の匂い。次いで母さんの声だった。
「おはよう織人」
「おはよう」
欠伸を噛み殺しながら挨拶を返す俺をニコニコしながら眺める母さん、というのもいつもの我が家の風景だ。
母さんの笑顔が何となくくすぐったかった俺は、それを誤魔化すかのように椅子に座る。隣は姉さんだ。
「……おはよう」
俺と同じように寝ぼけ眼をこすりながらのそっと現れたのは父さん。
「おはよう頼人さん」
俺と似通った仕草の父さんに、母さんはクスクスと笑いながら挨拶をする。俺は何か恥ずかしかったので俯いていた。姉さんは物欲しそうな目でご飯をジーッと見ている。早く食べたいらしい。
「加代も待ちきれないみたいだし、食べましょっか」
「「「いただきます」」」
我が家のルールとして、朝食と夕食は全員揃って、というものがある。破ると母さんから罰が下される。俺はなんだかんだでルールを破ったことが無い。しかし姉さんは破ったことがある。参考までにと、どんな罰だったのか訊いたが、頑として口を割らない。
……一体何があったと?
姉さんの様子に薄ら寒いものを感じ取った俺は、追求を止めたのだった。
味噌汁美味い。
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