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「はふっ……熱、あっ……柔らかい」
リアンの咀嚼が止まることがなかった。
味付けに塩はおろかなにも使わなかった筈なのに肉汁から身から塩のようにしょっぱく、大豆から抽出した油を幾重にも濃縮したようなこの味わいはとても自然のものと思えない。
噛めば噛むほど肉汁が溢れ噛むのが、もうやめられない。
「……んっ」
喉を通りすぎ飲み込んでも尚、舌に残る旨味とこの存在感。リアンの中で美味いと言う定義が変わったのを感じていた。
「美味いか?」
「はい、スッゴく!」
一度に一年分くらいの感動を味わったリアンは暫くその場で立ち竦んだまま動けなかった。
一通りの味を堪能すると食べられない爪と牙をしまい終え旅を再開した。
山を登っていくとゴツゴツした岩肌がつきでた岩盤地帯を二人は警戒にリズムを刻むように登っていく。
「意外と足速いのな」
また情けなく置いてかれるかと思いきやピッタリとケイラの後をついている。
「毎日、体力作りに走っているので」
「じゃあもう少し飛ばしていいな」
余裕そうに笑う彼女を見て、スピードをあげていく。どうやら今までは彼女に合わせていたようだ。
「どうぞ、遠慮なく」
「ストップ。今度は群れだ」
珍しくリアンが張り切って勢いついていた所で、急に止められた。今、二人がいる少し先の平地でバイラスが今度は3匹も徘徊している。
「ほ、本当ですね」
一匹でも彼女には手に負いきれないのに三匹では感じるプレッシャーも全然変わってくる。
「採掘場所はやっぱり先か?」
「はい」
避けては通れそうにないようだと、仕方なくケイラは何かを指差してなぞるように動かす。
「まぁでも、 3匹ならやりごせる」
何かに気づくとすぐに、身を低くするようリアンにも合図をおくり、見つからないよう岩に隠れる。
「ここからは慎重にだぞ。バイラスは視界が狭いから気をつけてれば大丈夫だ」
身を膝丈ほどにかがめて、平地で突き出している岩から岩の間を潜るように通っていく。
「……慎重に慎重に」
一時も気の抜けないこの時間。
ケイラが次の岩へと走るタイミングを見計らっているので、じっと腰を曲げたままあげることのできない時が続く。
「ふぅ……ふぅ……」
そうすると今度は腰がビリビリと震えて力が抜けて来てしまう。
リアンは、歯を食いしばって痛みに耐えながらケイラについていった。
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