297人が本棚に入れています
本棚に追加
バイラスの群れを通り過ぎ、見えなくなるところまで全速力で走りきり、地面へと転がり込んだ。
「ふう、なんとか通り過ぎましたね」
ようやく気が抜けると地べたに座って腰を叩き、ゆっくりと伸ばして休めていく。
リアンは弱々しくも、弱音を吐くことはなかった。自分以上に神経をすり減らしていた人が目の前にいたから。
「だー! いってぇ! いつまでもじろじろ見やがってクソ狼め! 腰が折れるかと思ったぞ!」
と、思っていた彼女の思考は二秒で壊されることになった。
「はは……」
既に通り過ぎた方向へまるで駄々っ子みたいに思いっきり罵声を飛ばす。そんな彼にリアンは苦笑いしかできなかった。
「よし、遅れた分戻すぞ」
「はい!」
ペースをあげて、すぐ走り出した。
中々後ろを向かない強情なのもいたせいでかなり時間を喰ってしまい、陽がうっすらと傾きかけていた。
「それで、どの辺だ?」
夜まで掛けたら分が悪いため、ケイラはとにかく急いでいる。
「中腹程ですから、もう少しですね」
元々、そこまで時間のかからない距離ではあったが、それでもこれからまたこうやって戦いを回避していては、いつまで掛かるか分からない。
「……って! また!」
そんな時でもバイラスの動きまで予知は出来ない。今度は前方に隠れる場所もない。
「今度は二匹……でも、逃げ切れませんよ」
既に敵の射程に捉えられた。ジロジロと今にも飛びかかって来そうな雰囲気で睨みつけている。
自分たちの侵入をこれ以上許さないと言ったように殺気立っていた。
「繁殖期にしちゃ気が立ちすぎだろ」
「なんかあるな……」
何か不穏な空気を感じながらもケイラは仕方なく、剣を抜く。
「ガァァァァァ!」
「ギャウッ!」
二匹は一声鳴らしてから一斉に襲いかかってきた。
足場の悪い傾斜で、互いに動ける範囲が限られてるにも関わらずバイラスたちの動きは加速されていく。
「正当防衛だ、悪く思うな」
最初のコメントを投稿しよう!