序章 始まりの息吹

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「あれは……バイラスなんですか?」 狼の体格とは比較にならない、熊ほどもある大きさもさることながら、ナイフのように研ぎ澄まされた角が一際目立つ。 更に洗練された爪と牙もまた異彩を放っており、ほかの者とは違う威圧を見せつけてくる。 「あれは親玉ってとこだが、これは厄介だな」 「バイラスの中で稀に角を持って産まれる奴もいる。それがあいつだ」 明らか権力をひけ開かす、角を持ったバイラス。その姿に中には逃げ出す者すらいた。 「生まれつきの才覚ってことですかね」 「実際、角持ちが頭張るには稀の稀だがな。はみ出し者は嫌われる」 そう言っている彼は何か知ったような口振りだった。 「嫌われてしまうんですね」 「同情はするなよ、絶対」 哀れみの目になったいたリアンをケイラは遮る。中途半端な哀れみは命取りになるから。 「それで、勝てますかね?」 これ以上追求はせず、目の前の問題から片づけるべくケイラに問いかけた。 採掘場所まで行くのに、どうやっても避けては通れそうにはない。 「こんな剣であの数ごと相手にしたら確実に散るな。という事でお前、囮やれ」 「え……えぇ! むぐっ!」 声にならないくらいに驚くリアンの口を急いで塞ぐ。 「本当にバカだろお前」 「聞け、まず俺がこの岩山の上に登るからお前は適当にバイラスの気を引いて向こうへ逃げろ」 さっき通ろうとした群れの逆方向を指でなぞり逃げる方向を誘導する。 「バイラスの視界は狭い。だから素早く横へ逃げれば見失うんだ、狼の割に意外と鼻は利いてないらしいから」 先ほどケイラが逃げ出したバイラスをかわしたようなやり方だとなんとなくリアンも理解している。 「わかりました……ケイラさんは?」 「俺は岩山から飛び降りて、親玉の心臓を刺す。そうすると統率とれなくなって大人しくなる」 覚悟を決めたように腰紐にかけた剣を外していく。 繁殖期にしては気だっていた理由。突然の強者による絶対王政によるものだった。 「チャンスは一度……」 頼りのケイラから離れてしまうことへの不安はどうしても拭えない。 「頑張れ」 それを察してか、彼なりの激励の言葉をかける。 「……はい!」 それでも、ようやく自分が役に立てる時が来たと彼女も覚悟を決めて、二人は各々の陣地へ分かれた。
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