297人が本棚に入れています
本棚に追加
リアンは緊張する気持ちを抑え、深く深呼吸をしながら所定の位置に身を隠す。
「すぅ……はぁ……」
自分から、名乗り出ておいて今までケイラに守られてばかりでは示しがつかないと言う気持ちだけが何とか奮い立たせていた。
「あ、合図。よし! 頼まれたからには全力
でやらなきゃ」
遠くからケイラが手を振っている。
いつでも始めていいということだ。
ふと、袖を捲って自分の左手につけた鉄製の腕輪に目をやる。だがすぐに目をそらして作戦を始めた。
「えぇい!」
傍にあった手のひら程の石を群れの中心部目掛けて放り投げた。
「?」
地面に当たった音がして、バイラスたちは一斉に石の飛来した方向を振り向く。
「お、鬼さんこちら!」
子供でも呼ぶみたいな言葉だが彼女の考えうる最大の挑発のセリフ。
数え切れない程の目がリアンを睨む。
だが、最初から投げた瞬間に後ろを向いていたので怯むことなく駆け出した。
「ギャアアア!」
角持ちの雄叫びで、地を揺らす程の音を立て飛びかかっていく。
「よし、十分。後は俺だ」
最無事逃げ出したリアンを確認すると、最後尾を走る角持ちを仕留める為に、剣を抜いた。
「ていっ!」
そして一気に岩山から飛び降りた。
このタイミングなら、心臓は難しいにしてもどこかしら当てられるとケイラは確信していた。
「よしっ!」
だがその確信は一瞬にして打ち破られる。
「ギャウッ!」
前だけ見て走っていた筈の角持ちは、突如首を曲げケイラを睨みつける。
野生の群れの長の長き戦いで培われた直感とも言える危機回避能力がケイラの一撃をかわしていた。
「なっ!? ぐぁっ!」
そんなことに気づく由もなく剣は空を切り、地面のみを突き刺してしまったケイラは角持ちに上から飛びかかられ抑えつけられてしまう。
「フシュウウ!」
牙から漏れた唾液がケイラの顔スレスレに当たる。
「このっ……」
暴れようとも、その類い希な巨体が獲物を掴んで離さない。そして、獲物を喰らおうとする牙がケイラを狙う。
「これでもっ喰らえ!」
精一杯の反撃とばかりに右前足を殴りつけた。姿勢も悪く力の入らない状態で好転する筈はない。
「シャッ!?」
だが、角持ちは殴られた右前足をガクンと折ってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!