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角持ちの右足に刺さっていたのは、折れた筈の彼のナイフだった。それが致命傷には至らずとも弱らせるには充分の役目を果たしていた。
「物はとっとくもんだな。それっ!」
すかさず、自由になった右手で鞘を握り直しがら空きな横っ腹を殴った。
「ガッ!」
身体が大きすぎて飛ばすには至らなかったがまずまずのダメージを与える。
「きったね!」
殴った時の衝撃で吐き出された口で溜まっていた唾液をバケツでかけられたように被ってしまう。
だが、抑えつける力が弱まったことで、ケイラは手を付かずに後ろへ宙返りし、動けるようになった。
「あー洗濯してぇ、つか風呂入りてぇ」
血だらけ唾液まみれの服と身体が気持ち悪くて仕方なさそうだ。
「ガァァァァァ!」
殴られた怒りで、今度は嫌われ者の証しでありながら力の象徴へと変えた角を剥き出しにし襲いかかってくる。
「おっと」
しかし確かに速いがデカい分、幾らか今まで相手していたのよりは遅い。
簡単にギリギリまで引きつけてかわし、情けなく先ほどケイラが登っていた岩に激突してしまった。
「へへっ」
そのまま気絶でもしてくれたなら儲け者とか思っていたケイラの予想を遥かに超える出来事が起きた。
ミシミシとなにかが壊れかけている音が響きだす。
その音の正体は、角に貫かれた岩は徐々に亀裂が入る音であった。やがて亀裂は隅々まで渡って行き、砕け散った。
「……まじかよ!」
そのあまりの光景に開いた口が塞がらない。
まかり間違って、もし受け止めようなどと判断を誤っていたらとケイラは背筋にうっすらと寒気を感じていた。
「シュウウウウ……」
降ってくる瓦礫など物ともせずに、再びケイラに狙いを定める。
「これは本気ださねぇと……」
そう言って、先ほどから地面に突き刺さったままの剣を引き抜いた。
切っ先は、角より下の首。こんな剣であの角とは勝負にすらならないだろう。
時は少し遡り。無事に追っ手を撒いたリアンは息を切らしてその場にへたり込んでいた。
「はぁ……はぁ……なんとかなりました」
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