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剣と魔法が発達した世界。
瓦礫と石造りの城や家が立ち並ぶ中世を思わせる時代。
ある地方では戦好きな帝王の国、別のところでは人々が肩を寄せ合い畑を耕す国、様々な国がある中で、その内の一つの街から物語が始まる。
ここは、レンガ造りの家々が立ち並ぶ街。
綺麗なドレスに身を包んだり、鎧と剣の装備をしている数え切れない程の人々が横行し、数多の金銭と商品が行き来するとても賑やかな場所。
「おぅ、親父。その鉄の剣をくれ」
その一角で、ドンと構えられている武器屋。
鉄で出来た剣や槍、斧といった鉄錆びの匂い漂う武器が壁にかけられ、樽へ乱雑に立てられている。
一見こんな賑やかな場所に似合わず物騒な店に買いに来たのは身なりのいい、育ちの良さそうな青年。
この時代、庶民だろうと貴族だろうとパンを買うが如く当たり前のことだった。
「3万G(ゴールド)になるぞ」
店のカウンター前で応対するは、ボサボサの髭面で強烈な顔立ちの中年男性。
カウンター前に右肘立ててもたれこんでおり、意図せずとも圧迫したしまいそうな形相だ。
「あいよ」
だが、青年は気にせず口を縛った布袋をカウンター前へと投げるようにしておく。
「どれどれ……確かにあるな」
布袋をひっくり返して、一枚一枚出てきた中の金や銀のコインを確かめる。
「リアン、そこの剣とってくれ」
店の奥の方を向かって怒鳴りつける。
「は……はいっ!」
店の奥から現れたリアンと呼ばれた小柄で若い女性。
赤い髪をポニーテールに纏めて、真っ黒に薄汚れたエプロンをかけていた。
「えーと、鉄の剣。鉄の……あれ、どこでしたっけ? あ、あった!」
どれがお求めの物か分からず暫く困惑し、やがて壁にかけてある立派な鞘に納められた三尺ほどの細身の剣に手をかけると留め具を外して剣を落とさないように抱きかかえながらカウンターまで運ぶ。
「よし、金もたりてるな。まいどっ!」
「おーぅ」
店主が金を数え終え、青年は剣が手に入って嬉しそうに腰へ差し、振り返る時に手を振って人混みの中へ紛れていく。
「……ほっ」
なにごともなく終わってよかったと、胸をなで下ろして一息つく。
「いつまで新人気分だお前は、もうここに来て半年だろが」
そんな彼女の行動を戒めるべく、眉をひそめて小言を言う。
「ごめんなさい……」
ぺこりと頭を下げて、まだ気の抜けきれないと言った顔で身構えている。
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