序章 始まりの息吹

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彼女自身、ここまで命懸けだった。それでも何か役に立ちたいと言う思いが突き動かしていた。 「なっ!? なんですか! この音は」 突然、何かが崩れていくような轟音。その方向はケイラが残っていた場所だった。 「ケイラさん……!」 気がつけば、リアンは走っていた。 ひたすら、ケイラのことが心配と言う一心で。 そして、現在戦闘中のケイラは。 「ガッ!」 正面から近づいてきて来た角持ちをギリギリまでひきつけてから難なくかわす。 「よっと!」 かわされた角持ちは、遠くまで走っていき彼方で急ブレーキをかけて方向を転換する。 「っぶねぇ、1回1回が命懸けだな」 かれこれ、既に7回は突撃を避けている。 敵側の右足分の損傷を差し引いても油断が出来ず集中を絶やせないケイラにはスタミナの消費が著しかった。 「なかなかチャンスが見えてこねぇ……」 敵は稀少中の稀少。情報の少ない相手に一撃で仕留めるチャンスを見いだせないでいた。 しかし、あまり時間もかけられない。暫くしたらまた仲間が戻ってきてしまう。 そうなれば確実に勝算はなくなると言う焦りがケイラから冷静さを少なからずも奪っていた。 「あーもー面倒くせぇ」 ケイラが手を出せない事に味をしめたのか、嫌がらせのごとく角を前面に出した突進攻撃が続いている。 「いつまでも! 調子に乗るな!」 ケイラはとっさに先程の突進で崩れ、足元に散らばった握り拳ほどの石ころを蹴り飛ばした。 「グッ!」 突然の飛び道具は正確に顔面を捉える。 四肢のバランスを崩し、あえなく減速をしていく角持ち。 「せいっ!」 この機会をケイラは見逃さない。 すかさず、剣を振りかざして正面から斜めに大きな切り傷を与えた。 「ガァァァァ!」 遂に与えたまともなダメージ。 完全に勢いを失って、悶えるように 暴れまわる。巻き込まれぬようすかさず距離を取った。 「ちっ……踏み込みが浅かったか」 だがケイラはこの時、首を落とすくらいの勢いで切った筈だった。それでも、後一歩間違えたら角が直撃していたかもしれないくらいの分、届かなかった。 「ギッ!」 すぐに持ち直し、怒りを込めたような更なる突進を繰り返す。
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