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その時、ケイラの耳に聞き覚えのある声がした。
「ケイラさんっ!」
唐突に駆けつけてきたリアン。
「ガァァァァ!」
「って、あいつ!」
迂闊にも、リアンがいる場所はケイラの背後。なにも知らない彼女は敢えて彼の後ろを選んでしまい、その事が徒になってしまったようだ。
それでも、 すぐ前まで角持ちは迫ってきている。
「ちっ!」
彼に下がることは許されなかった。
自分がかわすと、後ろのリアンがどうなるか考えずとも分かる。
「ガァァァ!?」
「……!」
この状況をどうすれば打開できるか、ケイラはそう考えるより早く、さっきよりも大きく足を踏み込み剣を縦に振る。
顔面を切り裂き血飛沫が舞い、後退する角持ち。ケイラは、ついに突進を止めて退かせるまでに至った。
「っ!」
だが、ケイラは自分が何をしたのか分かってないような顔をしている。ただ、切り裂いたと言う事実に違和感を覚えていた。
ただ、遂に狙っていたチャンスがやってきたと剣の切っ先を後方へ向けるようにして構えなおす。
「わりぃけど、その自慢の角」
「とてもじゃないが壊せそうにねぇ。だから誇っていいぜ」
結果的に、その角に全く手も足も出せなかった。
だからこそ、ケイラはその強さの象徴を最大限に評価する。
「ガァァァァ!」
角持ちも最後の力とばかりに突進の構えを取る。だが、時すでに遅い。
「俺の勝ちだ!」
一刀の下に振り下ろされた剣は確実に、深くまで切り裂いた。
「ッ……」
そのすれ違い様、勝負は一瞬にしてつく。
鮮血が散り、バイラスの親玉は叫び声すらあげることもなく、大地に身体を伏せた。
敬意を示し、その姿を見ないようにケイラは背を向ける。
「そして、これも……か」
気がついた時には根元だけ残して粉々に砕け散った剣。
それだけ、あの身体に傷を付けるのに響いていたかがよく分かる。
「終わったんですか?」
未だに事態の飲み込めないリアンはそっと聞いてみた。
「あぁ……」
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