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その問いに答えながら剣を見つめている。根元の折れた剣は鞘にはもう収まることはなく、地面に突き刺した。
今までの労をねぎらうよう、名残惜しくもあるようだが、未練を残さぬよう棄てるのがいい。
「ところで何でこんなとこに来たんだろうか」
急に眼の色が変わり辺りを見回して、首を傾げる。ここまで来た理由をすっかり忘れていたようだ。
「鉄鉱石ですよ! 鉄鉱石!」
そんな彼に思い出させるよう叫んだ。
「あー……剣折れるわナイフも折れるわ。服も身体も血とよだれでベタベタ。散々過ぎて忘れてた」
そうだったと思い出したように頭を掻いていた。
それだけ、ここまでくるのは大変な道のりだったわけだが。ケイラの中ですっかり緊張感が抜けてしまったようだ。
「とりあえず、ナイフ貸してくれ。素材剥いでおかないと」
「あ。はい」
ナイフを受け取ると、剥ぎ取りの作業を始めた。骨一つ残さず使い切るために。
「角もしっかり貰っておきたいけれど、このナイフじゃ折れそうだな」
散々苦しめられ、敬意を示した角は間近で見るとより一層強く、傷だらけで今までどれだけの戦いを潜ってきたのだろうか。
「親方の工房なら、もっと強いのがあると思いますよ」
一通りの設備が揃っている鍛冶屋なら当然かとケイラも納得した。
「そっか、じゃ一旦小分けにしておくか」
それに時間もあまりかけてられない。モタモタしていたら、またここに子分が戻ってくるかもしれない。
「こいつの角はしっかり使う」
とは言え、角持ち基い親玉がいないと分かると暫く統率が取れなくなるらしいが。
「よしっ……」
小分けにして、今までの分と合わせたら大荷物になってしまったがしっかりと背中で包みを抱える。
「採掘場所は向こうです」
「おぅ」
リアンの案内の下、やっと本筋に戻ることが出来たと安心しながらついていく。
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