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「こんなんじゃ、旅に出せんのはまだまだ先の話だな」
「はい……」
その言葉はいつか独り立ちしたいと言う夢を抱えている彼女にとって、なにより堪える言葉だった。
「あ、あぁ……ん、ん!。別に悪いって訳じゃねぇよ。腕はいいんだからよ」
だが、少し言い過ぎてしまったと咳払いして息を整え直す。
「はい」
ほんの少し安心したように微笑む。だが自分の未熟ぶりが拭えない悔しさが見え隠れしている。
その時、店の扉が静かに開き新しい客が入ってきた。
「ほら、次の客来てんぞ。今度はお前が接客してみろ」
店主は店の奥に下がってパンッとリアンの背中を叩いて後押しするとリアンはすぐにカウンターへと向かっていった。
「はいっ! 大丈夫……大丈夫」
挽回の機会を貰えたリアンは不安と焦りの混じった声で返事をする。
自分を落ち着けようと一生懸命になりながらカウンター前につく。
「ふむ」
入ってきたのはちょうどリアンと同じくらいの背丈の男。
どこか幼さの残るような顔立ちではあるが、黒いコートに身を纏い古ぼけた剣を帯刀している。
「…………」
「おい」
暫く店を適当に回っていた彼は、隅っこの方で壁にかけてあるイマイチ目立たない箇所にある鞘にしまわれた剣を手にとっていた。
「ひゃ、ふぁい!」
なんとか頑張ってみたリアンだが、彼に話しかけられた途端に言葉が裏返るほど驚きおののいてしまう。
「はぁ……」
そのあまりの情けなさから、奥の方でため息をつく店主の声がリアンの耳にも届いてしまった。
「これ、抜いてもいいか?」
それでも彼はお構いなしに話を進め、剣の精度を確かめたくてうずうずしている様子でほっといてもその内、抜いてしまいそうだ。
「ど……どうぞ」
「……これは」
ゆっくり鞘から引き抜くと、思わず彼は息を飲む。
その鈍く美しく光る鉄の刀身はまるで呼吸をしているみたいで。
一辺の歪みない刃は真っ直ぐ、芸術品かと思われるような美しさがあったがお飾りには留まらない、敵を裂き敵を斬る剣の荒々しさがあった。
彼はその輝きに見惚れつつ、リアンに問い掛ける。
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