序章 始まりの息吹

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「お客さん、500G足りねぇよ」 店主はようやく数え終わったところで、少し気まずそうな声で叫ぶ。 「げ……」 苦い顔して、とっさにポケットの中をまさぐりだす。 「悪いがこれじゃあなぁ」 「な、なぁ。俺の使ってた剣とか売れないか!? もうボロボロだけど」 慌てた彼は剣を吊していた腰紐を外して、店主の前へと見せる。 「家はね、売る専門なんだよ。買い取りならよそいってくれないか?」 だが、剣を抜こうともせずに突き返す。 買い取るとなれば、それなりの目利きが必要となる。店主にはその心得があまりなかった。 「くっそ、どうすっかな」   「あ、あの……」 途方にくれていた彼の前に弱々しくも声をかけたのはリアンだった。 「なに?」 よほど困っているのか少しイライラ気味に聞いていた。 「ちょっと、その剣見せて貰ってもいいですか?」 だが、ここで彼女は物怖じせずにハッキリと言う。強烈に目の色が変わり彼の剣から目を離そうとしない。 「別に、いいけど」 どうしたものかと迷っていたが、持っていても仕方ないかと剣を手渡す。 「おっとと……」 「おいおい、落とさないでくれよ?」 緊張しすぎてたからか剣を持ってフラフラとバランスを崩しかけたが、すぐに剣を寝かすように横に持つ。 「はい……では」 彼女は、剣一点のみに焦点を当てて、すっと途中で鞘に少しも当てることなく、まっすぐ引き抜いた。 「凄い……ここまで使い込んだ剣は見たことないです」 姿を現した刀身は、刃が幾つもボロボロに欠け、切っ先もなくなっており、サビも多く既に輝きを失っていたが、この汚れが彼の強さと、ここまで使いこなす程の力量を垣間見ていた。 「ほぉ、珍しいな。使い手を誉めるなんて」 そんなリアンに感心した店主が間から口を挟んだ。 「え? あ、ごめんなさい! なんだか私なんかが偉そうに!」 集中が途切れて、目の色も態度も戻ってしまい慌てふためき何度も頭を下げてしまう。 「いや、いいよ。ありがとさん」 誉められて悪い気分はしていないようだとイライラ気味の口調が直っていた。 「そうだな。お前さんにいい提案があるぞ」
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