序章 始まりの息吹

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「物は相談なんだが、金はこのままでいいからちょっと依頼を頼みたい」 「依頼?」 依頼と聞いて彼の目つきがほんの僅かな内に変わる。 「ちょっと向こうの岩山の方へ言って、鉄鉱石を採掘してほしいんだ。そろそろ材料が足りなくてな」 「そんなんでいいなら、お安い御用だがそれでいいのか?」 同意はするが、どうにもやることが簡単過ぎやしないかと勘ぐっている。 「それがな、いつもの採掘場所にバイラスが住み着いちまって」 「普段の奴らなら大したことないんだが繁殖期で気が立ってやがる。そうなると色々面倒でな」 「嫌ならやめていいぞ、この時期のあいつらは強いからな」 世界的に幅広い地域で確認されている狼のような獣。高い適応能力が特徴とされているが多少の戦闘の心得があるならばさほど苦戦はしないレベルと有名である。 「わーったよ。んじゃ、一丁バイラス退治と」 やっと安心出来たとばかりに、身体を伸ばしたり捻ったりして気合いを入れる。強いと聞いても怯みはせず自信の高さが伺える。 「あ! 採掘道具は用意してくれよ。俺はもうこんな剣しかねぇぞ」 「なに!? あんたギルド登録してないのか?」 急に、想定外のことを言われたからか声を裏返す店主。彼の身なりから明らかその類だと思っていたようだ。 世界中で最も繋がりのあるギルドは登録だけで性別や種族、宗教すら問わない多くの働き手を求める人たちが集まる組織で働く物たちの総称。 そこで働いている物ならば多少の採掘道具の支給はある物だった。 「してねぇよ。一々だりぃし、たまに狩りしてその日暮らしだよ俺は」 首をすくめて、あっさり言い切る。 「はぁ……?」 今時、武器を持ちながら珍しいのがいたものだと店主は呆れて椅子に座り込んでしまった 「なら、私が一緒に行きます」
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