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街を出ると、賑やかな街並みとは一転してサッパリとした地平線。どこまでも続いていそうな荒野の大地。
「おー本当に近いなぁ」
その荒野をまっすぐ言われた通りに西へ西へと歩いていくと、大した苦労はなくついてしまった。
「はい。この街一番の稼ぎ場所にして最大の山、ガウン山です」
ゴツゴツとした岩山ではあるが、道も整えられており、人の手が入った形跡がある辺り、如何にここを多くの人が通っているのか容易に想像できる。
「にしちゃ、まだまだだな~これの3倍はデカい山を見たことあるぞ」
「へぇ~。ケイラさんってここに来る前は何をしていたんですか?」
「適当にブラブラ回って放浪の旅だな」
「いいな~憧れてしまいます」
とても羨ましそうに自分の夢を実現させている彼を尊敬の眼差しでケイラを見つめる。
「さて、じゃあ行きましょうか。採掘場所まではそうかからないので」
早速、リアンはいつもの通りに登ってしまおうと足を伸ばす。
「待て」
だが、ケイラの一言で呼び止められる。
「え?」
「気づかないのか? まだふもとだってのに。こんなとこまで声が聞こえてきやがる」
耳を澄まさずとも、何らかの生き物がのどを鳴らし、雄叫びをあげている声が先程からそこかしこで聞こえていた。
いくら何でもこれが平常で、あの町がここまで賑わえたと思えないと考えての発言か。
「た……確かにっ。そうですね、確かに普段はこんなことないのですが」
ケイラに言われて、感じていた異変が疑問から確信に変わった。普段とは何だか様子が違う気がしている。
どこを向いても視線。絶えることのない雄叫び。まるで森そのものが自分たちに牙を剥いているかのようだ。
「ガァァァァァ!」
その第一手は向こうから放たれた。
岩山の茂みから飛び出した、一つの影はリアンへと襲い掛かっていく。
「きゃっ!」
驚いて尻餅をついたリアンの目先にいるのは青白く逆立った毛並み。そして、今にもその命を狙わんとしている鋭い牙と爪を携えた狼のような生物。
これこそ、炭鉱場所を縄張りとしている体格も小さく下っ端のようだがバイラスの一種だった。
「下がってろ!」
いち早く気づいたケイラがリアンの襟元を強引に掴んで引っ張りたたせると、自らの後ろへ追いやる。
「さて、本番前の準備運動にさせてもらうか」
「ガルルルル」
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