第一章 静かな雲

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 楓は風呂から上がると、ベッドに飛び込んだ。湿った髪が、ひんやり肩に乗る。  「あ…そうだ…名簿…」 楓は思い出したように昼間校長にもらった名簿を広げだした。名簿と言っても名前が並んでいるだけの出席簿だが、さすがに一回くらいは目を通しておかないと。  「…安藤香織…井上佳美…宇野雄介…」 一人一人名を呼んでいく。呼びながら、ふとあの疑問を思い出した。  校門にいた時感じた、あの違和感である。  疑問、というのなら他にもある。今は10月半ば、何でこんな時期に転勤が決まったのだろう。先の教師が他校に転勤したためと聞いているが、三学期制の小学校でこんな中途半端な時期に転勤は不自然すぎる。  そんなことを考えながら呼んでいたので、後半のほうの生徒の名はほとんど覚えぬまま、楓は眠りについてしまった。  今思えば   これが楓にとって    最後の休息となるのだった…
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