第一章 静かな雲

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 歩けば歩くほど目的地が遠退く、そんな気さえする山道。  幼い頃からあの時までずっと歩いていたとはいえ、さすがに10年も都会に住んでいたのだ、都会慣れするのも当たり前だ。  そして都会慣れした人間に、この山道は酷なほど急である。  両脇にある木々さえ、変わらない風景にインプットされれば癒しでも何でも無くなる。今が秋であることがせめてもの救いだ。  やっと目的の小学校が見えてきた。  [緑に囲まれた丘の上に建つ、情緒溢れる小学校]とは、まさにモノも言い様である。要するに、[田舎の山の頂上に建つおんぼろ小学校]だ。  そんなことを、小さい頃の楓はよく思っていた。  楓はゆっくり足をとめ、ただよう雲を背景とする母校を仰いだ。
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