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「ヒャハハハ。なあにそれ。あんたの方がよっぽど罰当たりじゃない。まあたしかに、あの神さまとやらだって、次に俺が起きる頃にはどうなってることか知れねえよなあ」
魔女は再び下品な声で笑い出したが、それは広い部屋の中では、ひどく虚ろに響いた。残響ですらも間を空けずに消え去って、ふたたび部屋は静寂を取り戻す。それを厭(いと)って、彼女は舌打ちをした。疎ましい。何もかも、くだらない、できそこないの茶番劇だ。
「もうやめだやめだ。てめーと話すんだったら、石くれとでも話してたほうがよっぽどマシだ」
「そうか」
どこまでも淡白な男の反応に、ウィトーはなにごとかを喚きながら頭をかきむしる。整った長い黒髪は乱れ、駄々をこねるように暴れる足が枕を蹴り飛ばし、もうもうと埃を舞い上げた。ひとしきり喚き散らした後で、ウィトーは唐突に体を跳ね起こした。
「それだよそれ! それがムカつくんだよ!」
額に突き刺さろうかという勢いで、彼女は褐色の肌に指を突きつける。
「なーにが『そうか……』だよ! テキトーな相槌ばっか打ちやがって。死ね!」
突きつけられた白い指の下で、それでも眉ひとつ動かさぬ男を、しばし歯軋りしながら睨めつける。「馬鹿にしやがって」ありったけの罵詈雑言を浴びせかけてから、ウィトーはふたたび枕の山へと倒れ込んだ。そのまま寝返りをうって、彼女はコーレリアに背を向けた。褐色の肌の王は、そんな魔女の後ろ姿を、彫像の頑なさで見つめ続ける。
「もう、眠るか」
ふてくされ動かないウィトーの細い肩へと、コーレリアは問いかけた。かき混ぜられた髪は千々に乱れ、跳ね、寝台の上に広がっている。体より長い漆黒の髪をまき散らして横たわるそのさまは、どこか、地に落ちた鳥を思わせる。
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