革命の夜

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   アデンの平和と安寧を盲目に信じていられたのは、かつてのジトが幼かったからばかりではないだろう。事実、この国は平和であったのだから。  大陸南部の小王国、アデン。大河に接した肥沃な国土と豊富な鉱産資源をもつその国を他国が求めぬ道理はなかったが、建国以来、アデンが異国の侵略を許したことは一度とてなかった。ここが千年王国と称されるそのゆえんを、多くの国民は知らない。穏やかな睡りのため、どれほどの血が流されるかを。彼らは戦場から遠ざけられ、そればかりか、自国の歴史すらろくには知らぬまま育つ。羊の仕事は草を喰(は)むことであり、剣をとり書を紐解くことではないゆえに。 「どうしたジト。いよいよになって足がすくんだか?」 「いや。すこし、考えごとをな」  顔を覗き込んできた同僚にジトは首を振った。彼の金髪青眼という容貌は、母から大陸北部の血を継いだためである。一方、浅黒い肌と鼻梁が高く彫りが深い目鼻立ちは父譲りのもので、筋肉質な長身と相まって、見た者に精悍な印象を与える。 「天下のフランジール家のご子息となれば、初めての任務でも余裕ってとこかな?」  ニヤリと笑う相方に、「ギヨン。家の話はやめろと言ったろう」ジトは呆れの目を返した。フランジール家といえば、優れた騎士を数多く輩してきたことで名高いが、それとジトの力量とはなんの関わりもない。まして戦いにおいてどう役立とうというのだ。そう彼が告げると、ギヨンは「違いない」と笑い、丘へと向き直った。   
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