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週に3回 葵はアルバイトにやって来た
他の日は、店の手伝い
バイトが終わってからも、閉店までは店を手伝っている
「葵~もう帰ってええで
後は、悟と二人で出来るから」
「はぁい」
葵の父は弘隆と言い、大阪に出て来てレストランに就職
コツコツと働き、小さいが自分の店を持つ事が出来た
悟というのは、唯一の従業員で、厨房からホールまであらゆる仕事をこなし
ある意味、このレストランを支えている
30歳を超えているが、若さに似合わず寡黙で真面目に働く男で、弘隆は悟の存在に助けられて店を維持していた
「悟さん、お先に失礼します」
「お疲れ様でした」
殆ど目線も合わさず、言葉だけで葵を送り出した
弘隆は、密かに、悟と葵が結婚して店を続けてくれれば嬉しいと考えていた
妻、春子には
「あの二人が結婚して、店を継いでくれればな…」
と言った事があった
春子も弘隆も、悟が葵を多少の恋愛感情を持って見ている事を知っていたが
「駄目ですよ 葵もまだ若いんやし、悟くんだってそんな押し付け迷惑ですよ」
と、春子に諭されていた
「まぁなぁ…そうやねんけど…
俺の我儘かな」
「私、このお店大好きよ
あなたに出会ったお店やし
せやけど、もし無くなってしもても、ちゃんと私の中に残るから」
「縁起でも無い事言うなよ
まだまだ俺も若いんやで
まだまだ頑張るで
せやから、お前も長生きせなアカンで」
「大丈夫、私、意外と図太いんやから
まだまだあなたの奥さんやで」
「せやな
図太ぅ無かったら、俺の嫁さんは務まらんからな」
「そんな事無いわよ
あなたは最高の旦那様
こんな私を、ずっと大切にしてくれてる
せやから、笑顔で居られるねん」
「そりゃぁ、大事な奥さんやからね」
元々身体が弱かった春子
親の反対を押し切って、駆け落ちするように結婚した
唯一の味方は、高校からの友達で親友の美里だけだった
決して裕福ではない生活で、割と裕福な家庭に育った春子だったが
何に関しても一所懸命な弘隆について行く事に、大きな不満は無かった
お金で苦労したとしても、お互いを尊重出来る関係は
互いの信頼を深める事が出来るのだ
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