391人が本棚に入れています
本棚に追加
「基喜っ」
怒気を含んだ呆れたような声が響く
「はいぃぃぃっ!!」
基喜は条件反射的に返事をした
「返事は短くっ!!
てめぇ、片付けろって言うたやろ!
このど阿呆っ!」
「うわっ、すみません!!
すぐ片付けますっ」
事務所の脇に停めたトラックの荷台には、使った道具が残っていた
一番下っ端の基喜は
片付けるのが仕事だが
単に事務所に書類を届けに離れただけで
忘れていた訳では無い
しかし
そんな言い訳が、耕介に通じる筈は無い
東 基喜 19歳
高校を中退して、自分の力で生きて行こうと
『早川工務店』に、就職して2年
基喜よりも後に…というより
基喜よりも経験の無い職人が他に居ない為に
未だ、一番の下っ端なのだ
事務所のドアに手を延ばしたところで、呼び止められて
慌てて片付けに戻り、睨みを効かせている耕介の視線を気にしながら
手早く片付け、事務所へ向かった
早川工務店は、大阪の田舎町にある
小さな工務店
信用と仕事の丁寧さで
地元では大きな信頼を得ていた
早川家の一部が、事務所となっていて
広い土地に、住居兼事務所と
駐車場に、作業用の倉庫
そして、基喜や独身の若い職人が住む離れがあった
事務所のドアを開けると、事務員をしている耕介の妹、美里が
お茶を淹れているところだった
最初のコメントを投稿しよう!