ほんの数秒

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「基喜っ」 怒気を含んだ呆れたような声が響く 「はいぃぃぃっ!!」 基喜は条件反射的に返事をした 「返事は短くっ!! てめぇ、片付けろって言うたやろ! このど阿呆っ!」 「うわっ、すみません!! すぐ片付けますっ」 事務所の脇に停めたトラックの荷台には、使った道具が残っていた 一番下っ端の基喜は 片付けるのが仕事だが 単に事務所に書類を届けに離れただけで 忘れていた訳では無い しかし そんな言い訳が、耕介に通じる筈は無い 東 基喜 19歳 高校を中退して、自分の力で生きて行こうと 『早川工務店』に、就職して2年 基喜よりも後に…というより 基喜よりも経験の無い職人が他に居ない為に 未だ、一番の下っ端なのだ 事務所のドアに手を延ばしたところで、呼び止められて 慌てて片付けに戻り、睨みを効かせている耕介の視線を気にしながら 手早く片付け、事務所へ向かった 早川工務店は、大阪の田舎町にある 小さな工務店 信用と仕事の丁寧さで 地元では大きな信頼を得ていた 早川家の一部が、事務所となっていて 広い土地に、住居兼事務所と 駐車場に、作業用の倉庫 そして、基喜や独身の若い職人が住む離れがあった 事務所のドアを開けると、事務員をしている耕介の妹、美里が お茶を淹れているところだった
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