391人が本棚に入れています
本棚に追加
何気にニヤニヤとしている葵
その表情は、基喜にとっては面白く無いものだが
付き合っている訳では無い以上、それは基喜の勝手な感情だ
「峻さんとは、仲良かったん?」
基喜がそう聞くと、葵は
「めっちゃ小さい時はね」
そう、素直に答えた
「なんか、嬉しそうやな」
そう言う基喜の言葉に、葵は少し焦った
「そうかなぁ…久しぶりやからやろ」
と、答えたが、反発ばかりして家にも寄り付かなかった頃の峻とは、本当に遠く離れてしまった気がして
それからは近付く事などもう無いだろうと思っていた
けれど、社会人になって、お互いある程度大人になって、ああやって普通に会話する事が出来たという事実は
正直、素直に嬉しかった
そんな感情は、口に出さなくても基喜にも伝わっていた
基喜は、峻の事は余り知らなかった
就職した時には、峻は家をもう出ていたし、母親の命日に
仏壇に手を合わせに来る程度で、互いに顔と名前を知っている程度のものだった
けれど、独立して安定した仕事を持った峻と自分が、対等に渡り合えるとは思えなかった
葵との間の関係も、まだまだ発展途上なものなのに、頭の中ではさらに先に進んで考えてしまっていた
『まだまだ半人前やからな…
女なんか作ってる場合ちゃうやんけ…』
そう、自分に言い聞かせていた
「どないしたん?」
何となく暗い表情に思えた基喜に、葵が話し掛けた
「何でも無いよ」
そう、笑って答え、その後は何も話そうとしなかった
「それやったらええけど…」
程なくして、車は工務店に到着し、葵は
「ありがとう」
と言って、事務所に入って行き、基喜は作業を続ける為に、車を戻して倉庫の中に入って行った
最初のコメントを投稿しよう!